ホーム> Salon de AI メディア> AI研修の現場から> AI推進担当は、詳しい人より聞かれる人。決め方と3つの仕事【役割カード付き】
「AIを進める担当を決めたいが、誰に頼めばいいか分からない」——生成AI研修のご相談で、経営者の方からよくいただく悩みです。
結論から言うと、AI推進担当に向いているのは、社内でいちばんAIに詳しい人ではありません。普段から同僚に「これ、どうやるの?」と聞かれている人です。
わたしたちはこれまで50回以上、中小企業の現場で生成AI研修を実施してきました。AIが社内に根づいた会社と、元のやり方に戻った会社の違いは、ツールよりも「誰が、何を担当したか」にありました。
この記事では、推進担当の選び方と、任せる仕事を3つに絞る方法を、そのまま使える役割カードつきでお伝えします。
推進担当がいない会社で起きること
推進担当を決めないままAIを導入すると、たいてい同じ経過をたどります。
有料プランを契約し、研修も一度受けた。最初の1週間は社内で話題になった。それなのに、1か月後に使っているのは言い出した1人だけ——。
使われなくなった理由を現場で聞くと、「難しかった」よりも「途中で詰まって、聞ける人がいなかった」という答えのほうが多いのです。
研修を受講中の企業さまからは、研修と研修の間にもチャットで質問をいただきます。その多くは、分かる人なら数分で答えられる内容です。
逆に言えば、その数分を引き受ける人が社内にいないだけで、社員は元のやり方に戻ります。
推進担当とは、この「数分」を社内で引き受ける人のことです。社員がAIを使わなくなる流れは、社員がAIを使わない3つの原因の記事で詳しくまとめています。
向いているのは「詳しい人」より「聞かれている人」
推進担当の候補を考えるとき、多くの会社は「いちばんAIに詳しい人」を思い浮かべます。
ですが、現場で推進担当がうまく機能していたのは、次の3つを持っている人でした。
条件1:社内の業務を知っている
AIの操作は、後からでも覚えられます。一方で、「この書類は誰が、いつ、何のために作っているか」を知るには時間がかかります。
業務を知っている人は、質問に答えるときに「その作業なら、ここで使えます」と、相手の仕事に置き換えて説明できます。
条件2:普段から同僚に聞かれている
推進担当の仕事の中心は、質問を受けることです。
もともと「ちょっと聞いていい?」と声をかけられている人なら、AIの質問も自然にその人へ集まります。役職や年次は関係ありません。
条件3:新しいことを試すのを面白がれる
業務棚卸しの記事では、棚卸しには経営者と「使ってみたい人」を呼んでほしいとお伝えしました。推進担当も同じです。
義務感だけで引き受けた人は、最初の壁で止まります。試してみること自体を面白がれる人のほうが、長く続きます。
選んではいけない3つのパターン
1. いちばん詳しい若手に、全部任せる
社内にAIに強い若手がいると、その人に任せたくなります。
ですが、本人の業務が忙しくなった瞬間に、社内のAI活用ごと止まるケースを何度も見てきました。その人が異動や退職をすれば、やり方も消えてしまいます。
詳しい若手には、推進担当の「相談相手」になってもらうのがおすすめです。窓口は聞かれている人、技術的な深掘りは詳しい人、と分けておけば、どちらか1人に負担が偏りません。
2. いちばん忙しい人に、兼任させる
頼りになる人ほど、すでに仕事を抱えています。そこに推進担当を上乗せすると、AIの質問はいちばん後回しになります。
質問した側は「忙しそうだから、もう聞かないでおこう」と考え、そこで止まります。
3. 指名だけして、時間を渡さない
「今日からAI担当ね」と伝えるだけでは、担当者は本来の仕事の合間に動くしかありません。
推進担当の仕事に使ってよい時間と、困ったときの相談先は、任命と同時に決めておきます。
推進担当の仕事は3つだけ
推進担当に「AI活用を全部進めてほしい」と頼むと、何から手をつければいいか分からず、止まります。
仕事は、次の3つに絞ってください。
仕事1:質問の窓口になる
「これ、入れて大丈夫?」「思った答えが返ってこない」といった質問を受ける係です。
全部に自分で答えられなくて構いません。答えられない質問は、社外の講師や、社内の詳しい人につなげば十分です。
大事なのは、質問した人を責めないことです。情報漏洩対策の記事でも書いたとおり、「入れてしまったかも」とすぐ言える窓口があるだけで、問題は小さいうちに見つかります。
仕事2:A4一枚のルールを更新する
生成AIの社内ルールは、最初はA4一枚で十分です。
推進担当は、窓口に届いた質問をもとに、そのルールを少しずつ書き足します。ルールの「迷ったら聞く先」の欄には、推進担当の名前を書いておきます。
仕事3:月1回、3つの業務の時間を測る
AIを使い始めた業務のうち3つだけを選び、月1回、かかった時間をメモします。
数字があれば、経営者への報告が「なんとなく便利になった」で終わりません。測り方は、AIの効果測定の記事で紹介しています。
そのまま使える:推進担当の役割カード
任命するときは、口頭で伝えるだけでなく、次のカードを1枚作って渡してください。
右の列は記入例です。自社に合わせて書き換えてください。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 担当者 | 総務課 ◯◯さん |
| 任期 | まず6か月(6か月後に見直す) |
| 仕事1 | 質問の窓口(社内チャットの「AI質問」の場所で受ける) |
| 仕事2 | A4一枚のルールを、月末に見直して更新する |
| 仕事3 | 月1回、3つの業務の時間をメモする |
| 使ってよい時間 | 週1時間(本来の業務から外してよい時間) |
| 報告先 | 社長(月1回・5分) |
| 相談先 | 社外の研修講師/社内でAIに詳しい人 |
このカードで抜けやすいのは、「使ってよい時間」と「報告先」です。
この2つが空欄のまま任命すると、先ほどの「指名だけして、時間を渡さない」パターンになります。
任命するとき、経営者が伝えること
推進担当を決めたら、社員全員の前で、経営者から一言伝えてください。
担当者本人が「わたしが担当になりました」と言うより、ずっと質問が集まりやすくなります。文例は次のとおりです。
「今日から、AIのことで分からないことがあれば◯◯さんに聞いてください。◯◯さんの仕事は、全部に答えることではなく、質問を集めることです。『入れてしまったかも』という相談も、責めずに受けてもらいます。そのための時間を、週に1時間取ってもらっています。」
ポイントは、「全部に答える人ではない」と最初に言っておくことです。担当者が「分からない」と言えずに抱え込むのを防げます。
ちなみに、わたしたちが社内で運用している49名のAI社員にも、それぞれの担当と、止まったときに誰が見るかを決めています。
人でもAIでも、「誰が、何を、どこまで」を書いて渡すことが、仕事が続くかどうかの分かれ目です。
よくあるご質問
専任と兼任、どちらがいいですか?
中小企業なら、最初は兼任で十分です。
ただし、兼任にする場合も「週に何時間使ってよいか」は必ず決めてください。時間が決まっていない兼任は、本来の業務に押し出されてしまいます。
社内にAIに詳しい人が1人もいません。
問題ありません。推進担当に必要なのは、詳しさよりも、質問を集めて外へつなぐ役目です。
答えられない質問は、研修講師など社外の相談先に回せば足ります。詳しさは、窓口を続けるうちに後からついてきます。
担当者が異動・退職したら、どうなりますか?
役割カードとA4一枚のルールが残っていれば、次の担当者に引き継げます。推進担当を「人」ではなく「役割」として決めておくのは、このためです。
任期の見直しのタイミングで、次の候補も考えておくと安心です。
経営者自身が担当してもいいですか?
社員が少ない会社なら、経営者が担当する形もあります。
ただ、社員から見ると、社長には「こんなことを聞いていいのか」という遠慮が生まれがちです。その場合は、質問の窓口だけを別の社員にお願いし、ルールの更新と効果測定を経営者が持つ、という分け方がおすすめです。
まとめ:推進担当は「聞かれる人」に、仕事は3つだけ
AI推進担当の決め方は、3つに集約されます。
①選ぶのは、詳しい人より、普段から聞かれている人
②仕事は、質問の窓口・ルールの更新・月1回の測定の3つだけ
③任命と同時に、使ってよい時間と報告先を決め、経営者から伝える
推進担当が決まると、AIは「言い出した1人の道具」から「会社の道具」に変わります。
わたしたちの研修では、ツールの使い方とあわせて、ルールと使い方を明文化し、社内に広げられる人材を育てるための考え方をお伝えしています。
「うちの会社なら、誰が推進担当に向いているか」を相談したい方は、30分の無料相談をご利用ください。